10 T桁橋や箱桁橋に関する質問

 

 

 Q10.1 T桁橋の設計において,横桁や床版による荷重分配は,格子桁理論や直交異方性版理論によるとありますが,直交異方性版理論とはどのようなものでしょうか?

 

 A10.1 A8.2でも触れましたが,平板の理論には,等方性版理論と直交異方性版理論とがあります.等方性版とは,コンクリート床版のように,曲げ剛性がどの方向でも同じであるようなものを意味し,直交性版とは,鋼床版のように直交二方向の曲げ剛性が異なるものを意味します.

 さて,複数のコンクリート桁と床版からなるT桁橋は,支間長が短く,幅員が広い場合にはば,桁としての挙動より,平版として挙動に支配されます.したっがて,床版上の荷重の各主桁への分配には平板理論による方がより望ましいと思われますが,主桁と横桁の間隔と断面寸法が異なるので,全体を版と見た場合,支間方向の曲げ剛性は支間直角方向の曲げ剛性よりかなり大きくなるのが普通であり,式(9.2-2)で示した等方性版理論より,以下に示す直交異方性版理論を適用する方が望ましいものととなります.

                       (10.1-1)

    ここに,:たわみ,:支間方向,:支間直角方向,:床版に作用する荷重分布強度であり,はそれぞれx,y方向の単位幅当たりの曲げ剛性, はねじり剛性であり,実用解析では,とすることが多いようです.

 式(9.1-1)は級数解析法や有限要素法によって解析でき,各主桁のたわみ量から荷重分配係数を求めることができます.

 

 

 

 Q10.2 箱桁断面のねじり剛性やねじりせん断応力度はどのようにして求めるのでしょうか?

 

 A10.2 箱桁断面はフランジやウエブが断面の高さや幅に比べて小さいとし,薄肉断面理論を適用するのが普通です.一般に,ねじりモーメントとねじり率(単位長さ当たりのねじり角)の間には以下の関係があります.

                                   (10.2-1)

   ここに,:せん断弾性係数,:ねじり剛性で,I形断面やT形断面のような薄肉開断面に対しては,

                                  (10.2-2)

   ここに,:薄肉中心線を展開した全長,:フランジやウエブの肉厚,積分は薄肉中心線に沿って実行します.一方,箱桁断面のように薄肉閉断面に対しては,

                                    (10.2-3

   ここに,:薄肉中心線が囲む面積で,積分は薄肉中心線に沿って一周積分とします.

 

     

10.2-1 薄肉箱形断面         10.2-2 箱形断面桁

 

 さて,10.2-1に示すような,箱桁断面に対して(10.2-3)を適用すると,であり,

                          (10.2-4)

となります.

 一般に,開断面のねじり剛性は閉断面のねじり剛性よりかなり小さくなるので,9.1-2のような箱桁断面のねじり剛性は点線で囲んだ閉断面部のみの考慮で十分と思われる.

 つぎに,ねじりモーメントによるせん断応力度は,上下フランジおよび左右のウエブに対して,それぞれ,以下のように求められる.                   

                              (9.2-5)

     ここに, である.(9.1-5)により,1室の薄肉閉断面のねじりせん断応力度は,最も薄い部分で最大になると言えます.

 さらに,詳しい説明と関連する例題はChap.6.2(PDF)pp.64-65,例題6.2-3をご覧ください.

 

 

 

 Q10.3 図9.2-2の箱桁断面桁が曲げせん断力を受けた場合には,ウエブに鉛直せん断応力度が発生しますが,フランジの張り出し部にも水平せん断度が発生するとありますが,この理由は何でしょうか?

 

 A10.3 10.2-2のような箱桁断面桁が曲げによる鉛直せん断力を受けた場合には,ウエブに鉛直せん断応力度が働くことは,すでにA8.5で説明したとおりですが,図10.3-1に示すようにフランジの張り出し部の断面にも水平せん断応力度が働き,フランジの張り出し幅が厚みに比べて非常に大きいときには,水平せん断応力に対しても照査をしなければなりません.このような水平せん断応力度の発生する理由は,張り出し部の断面に発生する曲げ応力の軸方向の変化量の合力とつり合う成分がフランジ厚が薄いので鉛直せん断応力度ではなく水平せん断応力度で受け持たれるためで,フランジの張り出し幅が大きければ大きいほどが大きくなります.

 

 

10.3-1 フランジの張り出し部の水平せん断応力度

 

 

 さらに,詳しい説明と関連する例題はChap.6.1(PDF)の中のpp.57-60をご覧ください.

以上