4.鋼とコンクリートの材料特性

 

 Q4.1 弾性,弾塑性,塑性とはどのような特性で,設計ではどのように考慮するのでしょうか?

 

 A4.1 鋼やコンクリート材料の応力()−ひずみ()曲線は,4.1-1(a)のようになり,ある時点Aから応力を取り除いたときに戻るひずみ()を弾性ひずみ,残留するひずみ()を塑性ひずみと言います.図のように弾性ひずみと塑性ひずみが混在する性質を弾塑性特性と言います.また,応力レベルが低く,塑性ひずみの影響が無視できるならば,弾性特性のみを有する材料弾性モデル)として取り扱い,逆に,金属材料が引張を受ける場合のように,最大応力時点以降の塑性ひずみが大きい場合には,弾塑性特性を2直線でモデル化(完全塑性モデル)して取り扱うこともあります.

 土木構造物の設計では,鋼やコンクリートに対して,“構造解析”のレベルでは,線形弾性モデルとして取り扱い,“断面解析”のレベルでは完全塑性モデルとして取り扱うことが多いようです.

 

   

   (a) 実材料         (b) 弾性モデル       (c) 完全塑性モデル

4.1-1 応力−ひずみ曲線とモデル化

 

 さらに,詳しい説明と関連する例題は,Chap.5(PDF)の中のp.46,例題5.1-1およびp.49,例題5.1-5をご覧ください。

 

 

 

 Q4.2 設計に用いる鋼やコンクリートの弾性係数はどのような値に採るのですか?

 

 A4.2 鋼の応力−ひずみ曲線は降伏点まではほほ直線であるので,その直線の勾配を弾性係数(ヤング率)とし,設計に用いる鋼材やPC鋼線の弾性係数()は,としています.

 一方,コンクリートの応力−ひずみ曲線は低応力レベルでも非線形であるので,通常は,許容圧縮応力度の相当する終局強度の1/3程度の応力点での割線弾性係数を用い,コンクリートの弾性係数()は,設計基準強度()に応じて変化させており,で,とし,で,であり,それらの中間ではほぼ線形補間された値を用いています.また,せん断弾性係数()は次式で求めています.

                          (4.2-1)

     ここに,はそれぞれ鋼およびコンクリートのポアソン比で,に採っています.

 

 

 

 Q4.3 設計荷重作用時の部材断面の応力算定において,コンクリートに対する鉄筋の弾性係数比n)は,鉄筋コンクリート構造に対しては,n=15,プレストレストコンクリート(PC)構造に対しては,は設計基準強度2160N/mm2に応じて,2.353.5N/mm2を採ることになっていますが,この根拠は何ですか?

 

 A4.3 前問で示したように,コンクリートの弾性係数()は設計基準強度()に応じて変化し,2.353.5N/mm2であります.しかしながら,鉄筋コンクリート(RC)構造の断面応力計算には,古くからn=15としています.この理由の一つには,RC構造は自重の影響が大きく,長期荷重に支配され,クリープの影響を受けやすいことが考えられます.一方,PC構造では,ひび割れ発生前の挙動が重要であり,の採り方に敏感であることより,より正確なを用いているものと推察されます.なお,RC構造でも,不静定構造の解析には,弾性係数比はではなく,程度に採っております.

 

 

 

 Q4.4 コンクリートのクリープや乾燥収縮はどのような現象ですか?

 

 A4.4 4.3-1に示すように,コンクリートの応力・ひずみ曲線において,一定の応力の下で,時間の経過につれてひずみが増加する現象をクリープ(creep)と言い,一定のひずみの下で,の経過につれて,応力が減少する現象を緩和,またはレラクセーション(relaxation)と言います.これらの現象は材料の粘性に起因するもので,鋼に比べてコンクリートでは大きくなります.したがって,コンクリート部材は,一定の荷重下で時間ととも変形が増加していくので,自重の大きいコンクリート桁のたわみ解析にはクリープの影響を考慮する必要があります.

 

4.4-1 クリープとレラクセーション

 

 一方,乾燥収縮は,材料に含まれる水分の蒸発に伴って収縮する現象で,コンクリートの固有の現象であります.

 コンクリートのクリープや乾燥収縮は,導入したプレストレス力の持続時間による損失に寄与し,PC構造では特に重要な影響を与えます.また,RC構造でも,たわみの増加や不静定構造の応力変化に影響します.コンクリートのクリープも乾燥収縮も材齢の若い時ほど大きく,材齢とともに徐々に減少して行きますが,部材の形状や寸法の影響を受け,何年にも亘って起こる現象であります.

 さらに,詳細な説明と関連する例題は,Chap.9(PDF)の中のpp.84-91をご覧ください.

 

 

 

 Q4.5 クリープに伴う応力変化は,どのような場合に起こるのでしょうか?

 

 A4.5 終局強度より十分に低応力レベルでのコンクリートのクリープは線形クリープ理論に従うと言われています.線形クリープ理論によるクリープひずみ()は,荷重による弾性ひずみ()に比例します.すなわち,

                                 (4.5-1)

 ここに,はクリープ係数と呼ばれ,載荷開始時刻()およびコンクリートの材齢()の関数であり,は荷重による応力,は時刻()での弾性係数であります.

 弾性ひずみとクリープひずみの和を以下のように表わせば,

                               (4.5-2)

時刻()での見かけの弾性係数は,となります.したがって,持続荷重を受けるコンクリート桁のたわみは,時間の経過につれて,の比率で増加すると言えます.

 ところで,静定系のコンクリート構造物に時刻()での載荷により発生する応力の下での,時刻でのひずみは,であり,部材断面にクリープによる応力変化が発生することはありません.また,不静定系のコンクリート構造においても,見かけの弾性係数:は時刻とともに変化しますが,各部材が一様に変化するので,クリープによる不静定力は発生しないので,クリープによる応力変化が起こりません.

 しかしながら,施工期間中に構造系が変化する場合には,材齢により見かけの弾性係数が変わるので,クリープに伴う応力変化が起こります.たとえば,図4.5-1に示すように,連続桁の施工において,最初に,左右の短径間部を架設し,自重による載荷が時刻で始まり,その後,時刻で中間支点上で左右の桁を結合する場合を考えましょう.クリープは時刻で発生するが,単純桁ではクリープに伴う応力の増加は起こりませんが,中間支点上で結合した後のをでは,左右の桁のクリープたわみが拘束されて,支点上で不静定力としての負の曲げモーメントが発生し,それに伴う応力変化が起こります.

 

 

4.5-1 クリープに伴う曲げ応力の例

 

 一般に,材質や材齢が異なる部材が集合した構造物では,見かけの弾性係数:が部材によって異なるために,クリープに伴う応力が発生すると言えます.たとえば,鋼とコンクリートの合成部材では,コンクリートがクリープによって変形しようとするが鋼がそれを拘束して,静定構造であっても断面内の応力分布が変化します.

 関連する後述の質問Q11.1を参照してください.また,さらに詳しい説明と関連する例題は,Chap.9(PDF)の中のp.87,例題9.1-5をご覧ください.

以上