4. 耐震設計に関連する問題

 

 Q14.1 振動における固有周期とはどのようなものを言うのでしょうか

 

 A14.1 14.1-1のような振動波形において,最大変位の発生時間間隔を固有周期()と言い,その逆数を固有振動数と言います.

 

14.1-1 振動波形と固有周期

 

 

 

 Q14.2 道路橋示方書,耐震設計編では,図14.2-1(a)に示すような上部工の重量を支える橋脚の固有周期(T)は,,ただし,は上部工を支持する重量と下部工の重量()の80%を,慣性力の作用方向にかけたときの変位となっていますが,この根拠を教えて欲しい.

 

 

14.2-1 橋脚の水平振動

 

 

 A14.2 14.2-1(a)の橋脚が振動モードは,1自由度系の振動モードに支配されると仮定すると,14.2-1(b)のようになります.1自由度系の振動問題は,14.1-2に示すような,質量とバネ係数を持つ問題になり,自由振動の運動方程式は以下のようになります.

                                  (14.2-1)

 ここに,は変位で,を意味します.(13.2-1)の解は,

                                  (14.2-2)

 

 

 

14.2-2 1自由度系の振動問題

 

 ここに,Aは片振幅,となり,を固有円振動数と言い,固有周期は以下のように表わせます.

                                (14.2-3)

 さて,14.2-1(a)の橋脚は,本来,多自由度振動問題ですが,地震時には第1次モードが卓越すると見なして,1自由度系の問題に置き換えて求めたときの固有周期がであります.すなわち,バネ係数は重量,ここには重力加速度()を橋脚上端に水平にかけたときの変位との比,すなわちと見なし,

                              (14-2-4)

となります.なお,振動する質量には,上部工の質量だけではなしに,下部工の質量も寄与するので,下部工の質量の80%,すなわちを加えております.また,水平変位の算定には,橋脚の変位のみならず,基礎の回転の影響も考慮する必要があり,回転バネ係数をとし,高さhの橋脚の平均断面2次モーメントを,弾性係数をとすれば,柱頭の水平変位は,近似的に以下のように求められます.

                          (14-2-5)

 

    

 

 Q14.3 加速度応答スペクトルとは何ですか?また,どのような意義を持つのでしょうか?

 

 A14.3 一般に,地震波や音波などの不規則波の周波数解析により,どのような周波数(振動数と同じ)の波がどのような強さで含まれているかを示したグラフをスペクトル図と言います.代表的なものとしては,観測した不規則波をフーリエ変換して,横軸に周波数を,縦軸に振幅または振幅の二乗の値を示したグラフをフーリエ振幅,またはパワースペクトルがよく知られております.

 

14.3-1 1自由度系の地震応答問題

 

 

14.3-2 加速度応答スペクトル    図14.3-3 標準加速度応答スペクトル

 

 一方,応答スペクトルとは,耐震解析の特有なもので,14.3-1に示すような,1自由度系の振動問題において,特定の地震動の入力により,変位,速度または加速度の最大応答値を求め,横軸に固有周期を,縦軸にそれぞれの最大応答値を示したグラフであり,最大加速度に対するものを加速度応答スペクトルと呼んでいます.図14.3-2に加速度応答スペクトルの例を示すが,減衰定数()により最大応答値が異なるので,通常,0.10.15などと変化させたときの複数のグラフを描いております.

 加速度応答スペクトルは,固有周期()を有する構造物が特定の地震動に対して,どのように影響を受けるかを示したグラフであり,最大加速度応答値()に質量()を掛けたもの,すなわちは,構造物に与える最大地震力に相当しております.

 ところで,設計では,過去に記録された最大級の地震動に対する加速度応答スペクトルを地盤特性に応じて整理・統合し,平準化した標準加速度応答スペクトル(14.3-3参照)を利用しており,これを基準にして,減衰定数や地域特性を加味して設計地震荷重を定めております.

 さらに詳細は,Chap.13.1(PDF)の中のpp.122-125,例題13.1-1をご覧ください.

 

 

 

 Q14.4 1自由度系と多自由度系の地震応答解析はどのように違うのですか?

 

 A14.4 14.3-1に示したように,1自由度系の問題とは一つの質量が一つのバネ係数で支えられた振動モデルで,上部工の重量を支持する単一橋脚が地震動を受ける場合などに適用できます.このときの運動方程式は

                               (14.4-1)

 ここに,は入力地震加速度,は減衰係数であります.比較的小さな地震時で構造物が線形弾性域にある場合には,バネ係数は一定であり,(13.4-1)の解は理論的に求められます.

 しかしながら,大きな地震時に構造物が非弾性領域に入るならば,バネ係数,,変位の大きさに依存して変化し,式(14.4-1)の理論解析が難しくなります.このような,非線形バネ係数,を有する(14.4-1)の解析を動的非線形応答解析と言います.

 1自由度系の動的非線形応答解析は,微小時間間隔ごとにを求め,数値積分しなければならなく,塑性領域に入ると負荷径路と除荷径路でkが異なり,煩雑になりますので,等価線形化手法が用いられることがあります.この手法は,14.4-1に示すように,非線形の曲線上のAから除荷径路に入り,再負荷径路を辿ってA点に戻る1サイクルを考え,A点での割線剛性係数1サイクルでの逸散エネルギーに等しい等価減衰定数を用いて,線形問題に置換する方法であります.すなわち,

                                (14.4-1)

 ここに,は1サイクルでの弾性ひずみエネルギー(図で斜線を施した面積),は1サイク

14.4-1 等価線形化手法

 

ルでの逸散エネルギー(図のAAをとおるループが描く面積)である. は事前には分からないので,適当な初期値を用いて,線形問題の解析を行ない,応答変位に応じて修正し,線形問題の繰り返し計算によって非線形応答解を求めることになります.

 つぎに,多自由度系の動的非線形解析は,14.4-2に示すような,ラーメン橋の地震応答解析に必要になります.すなわち,地震時に発生するモードは一つではなく,柱とはりの剛性および上載重量によって,複数の振動モードの影響が現れます.このときの運動方程式は

                         (14.4-2)

 ここに,は質量行列,は減衰マトリクス,が剛性行列,は慣性力の作用方向を

表わすベクトル,は入力地震加速度であります.これらの行列の次数は,構造の変形解析での自由度に一致します.

 

       (a) 質量分布の一例          (b) 発生する振動モードの例

14.4-1 多自由度系の地震応答問題

 

 ところで,軽微な地震動では,構造物は線形弾性域にあり,剛性行列は一定になり,後述するモーダルアナリシスにより,1自由度系の問題に変換できますが,レベル2のような大地震時では構造物は非線形領域に入り,は変形とともに刻々と変化し,1自由度系の場合のような線形化手法は使えず,式(14.4-2)を時々刻々と数値積分しなければなりません.このような数値積分による解析法は時刻歴応答解析法とよばれ,今日,多くのコンピュータソフトが開発されており,詳細は専門書を参考してください.

 

 

 

 Q14.5 固有振動モードとか規準振動モードとは何ですか?

 

 A14.5 前問で述べたように,1自由度系の振動問題では,固有周期は一つであり,振動モード(波形)も一つですが,多自由度系の振動問題では,自由度の数だけの固有周期と振動モードが存在し,これらを求めるには,固有値解析を行なわねばなりません.以下に簡単に説明しますが,詳しくは,Chap.12(PDF)の中のpp.119-120をご覧ください.

 まず,1自由度系の自由振動問題での運動方程式は,式(14.2-1)により

                                  (14.5-1)

     ここに,は質量,は変位,は弾性剛性係数(バネ係数)であり,上式を変形すると,

                                  (14.5-2)

     ここに,であります.

 つぎに,n自由度系の自由振動問題での運動方程式は

                               (14.5-3)

     ここに,は質量行列,は剛性行列,は加速度ベクトル,は変位ベクトルであり,各行列の次数なnであます.ところで,n個の振動モードベクトル;からなる行列をとし,を式(13.4-3)に代入すれば,

                              (14.5-4)

    上式において,の解が存在する条件は

                                (14.5-5)

    上式を固有方程式と呼んでおり,その根,i次の固有円振動数を与えます.

 また,(14.5-5)より得られた(13.5-4)に代入して得たを固有モードベクトルと言います.固有モードベクトルは,n個の要素の相対的な値を規定するもので,を以下のように正規化したベクトルを規準振動モードベクトルと呼んでいます.

                                 (14.5-6)

 規準振動モードベクトルを導入すると,(14-4-4)によるn自由度系の問題がn個の1自由度系の問題に変換でき,地震応答解析が容易になり,この種の方法をモード解析法(モーダルアナリシス法)と呼んでいます.

 さらに,詳しい説明と関連する例題は,Chap.13.1(PDF)の中のpp.125-126,例題13.1-2をご覧ください.

 

    

 

 Q14.6 減衰係数の採り方について教えて欲しい.

 

 A14.6 減衰を考慮した多自由度系の自由振動問題の運動方程式は,式(13.5-3)に代わり以下のようになります.

                            (14.6-1)

 ここに,は速度に比例する粘性減衰を意味し,減衰マトリクスと呼ばれています.

 1自由度系の問題では,は一つの要素であり,減衰定数は以下のように定義しています.

                                   (14.6-2)

 道路橋示方書,耐震設計編では,弾性域にある鋼構造では,,コンクリート構造では,とし,塑性域に入る橋脚では,が推奨されています.

 ところで,n自由度系の問題では,の要素はあるので,全要素を定めることは困難です.そこで,いくつかの提案があり,最も簡単なものは,レイリィー減衰と呼ばれ,以下のように与えられています.

                                (14.6-3)

 ここに,係数は,影響の大きい二つの振動モードでの固有円振動数,,と減衰定数,,を用いて以下のように求められます.

                            (14.6-4)

 また,道路橋示方書,耐震設計編では,耐震設計上の影響の大きい複数の規準振動モードを用いて,次の振動モードに対する等価減衰定数を以下のように与えています.

                           (14.6-5)

 ここに,構造物はの要素から成り立っているとし,i次モードでのj要素成分,は全体剛性行列要素成分を意味し,要素での減衰定数を表わしています.

 (14,6-5)は,各振動モードでのひずみエルギーに基づいたものであり,をエネルギー減衰定数と呼ばれることもあります.

さらに,詳しい説明と関連する例題は,Chap.13.1(PDF)pp.127-128をご覧ください.

 

 

 Q14.7 プッシュオーバー解析とは何ですか?また,どのように設計に利用するのですか?

 

 A14.7 前述のA14.1で述べたように,上部工の重量を支持する橋脚が水平地震動を受ける場合,1自由度系の振動問題として取り扱う場合には,バネ係数の取り方が重要になります.レベル1の地震動での安全性の照査に対しては,は橋脚の弾性たわみ剛性と見なして十分ですが,レベル2の地震動での安全性の照査では,塑性変形の影響を考慮しなければなりません.

14.7-1 P-δ曲線

 

 

 そこで,橋脚の柱頭(正確には,上部工の慣性力の中心)に水平荷重をかけたときの水平変位を静的非線形解析で求め,得られた曲線からバネ係数を決める方法がよく用いら,曲線を求めるための解析をプッシュオーバー解析を呼んでいます.

 たとえば,RC橋脚の場合には,14.7-1に示すように,コンクリートのひび割れや鉄筋の降伏,ならびに橋脚下端での塑性ヒンジを考慮した数値解析を行ない,橋脚下端でのコンクリートの圧壊による終局限界までの曲線(図の)を求めます.また,実用設計には,図の点線のようにモデル化した曲線を利用し,塑性域の影響を考慮することが多いようです.

 プッシュオーバー解析により得られた曲線は,橋脚等の地震時保有水平耐力および許容塑性率の決定に利用され,具体的には次問で詳しく説明します.

 さらに詳しい説明と関連する例題は,Chap.13.2(PDF)の中のpp.132-144をご覧ください.

 

 

 Q14.8 図14.7-1の点線でモデル化した曲線を用いた場合,耐震設計では,塑性域の影響をどのように考慮するのですか

 

 A14.8 レベル2のような大地震時には,構造物が大きな塑性変形が発生すると考えます.もし,最大変形を起こす時点では,地震動による入力エネルギーが構造物のひずみエネルギーに費やされると仮定すると,14.8-1曲線において,線形弾性モデル(曲線)では,三角形の面積がになり,完全塑性モデル(曲線)では,の面積がになります.したがって,一定の入力エネルギーによる最大荷重応答値は,線形弾性モデルでは,完全塑性モデルではになり,最大変形量はになり,もし,構造物が有する終局限界時の変形量より,が小さければ,残留変形量があっても構造物は破壊に至らないといえます.

 ところで,とし,図中の三角形の面積と四角形の面積を等しいとおけば,以下の式が得られます.

      

                               (14.8-1)

 ここに,は塑性率またはじん性率と呼ばれています.したがって,14.7-1のような曲線に基づき構造物の許容塑性率()を定めておけば,完全塑性モデルの最大応答荷重値は,線形弾性モデルでの最大応答値を倍に低減した値に相当します.道路橋示方書,耐震設計編では,レベル2の地震動に対する安全性の照査において,このような低減を行なっております.

 

14.8-1 エネルギー一定則

 

 

   さらに,詳しい説明と関連する例題は,Chap.13.2(PDF)の中のpp.129-130,例題13.2-1および13.2-2をご覧ください.

 

 

 

 Q14.9 道路橋示方書,耐震設計編では,単柱式鉄筋コンクリート橋脚の保有水平耐力は以下の式によっていますが,この式の根拠を教えて欲しい.

                                   (14.9-1)

 ここに,は橋脚基部断面の終局曲げモーメント,は上部工の慣性力の中心から橋脚基部までの距離,であり,終局耐力時の水平変位は以下のように与えられる.

                         (14.9-2)

 ここに,は塑性ヒンジ長(mm)はそれぞれ橋脚基部断面における降伏曲率(mm)および終局曲率(mm)です.

 

 A14.9 は上部工の重量および橋脚の自重による圧縮軸力を考慮して,Q7.3(7.3-1)および(7.3-2)により求めることができます.

 一方,終局変位は,14.9-1(b)に示すように,橋脚基部の塑性ヒンジでの回転による変位:と橋脚基部断面での鉄筋降伏時の変位の和として与えています.

                            (14.9-1)

                                  (14.9-2)

 ここに,塑性ヒンジでの終局曲率は,14.9-2(c)に示すように,軸圧縮力の影響を考慮した橋脚基部断面での圧縮縁のコンクリートひずみが終局限界ひずみ(たとえば,)に到達したときの曲率であります.

 

14.9-1 単柱式RC橋脚の水平保有耐力と終局変位

 

 

14.9-2 橋脚基部断面でのひずみ分布

 

 一方,は,14.9-1(c)に示すように,橋脚基部断面の曲率が鉄筋の降伏ひずみになる時の曲率分布:を用いて,仮想力法により,以下のように求められます.

                         (14.9-3)

 ここに,は橋脚軸線上の上部工の慣性力の作用点からの距離,の位置での曲率,は仮想力による曲げモーメント,,であります.(13.9-3)での積分はシンプソン法などの数値積分法を用いて実行できます.

 さらに,詳細な説明と関連する例題は,Chap.13.2(PDF)の中のpp.134-141例題13.2-68をご覧ください.

以上