13. 座屈に関する質問

 

 Q13.1 局部座屈と全体座屈とはどのように違うのでしょうか?

 

 A13.1 全体座屈とは,桁,柱あるいはフレームとしての座屈を意味し,局部座屈とは,部材の断面を構成するフランジやウエブの座屈を意味します.たとえば,13.1-1(a)はラーメンの柱材の座屈波形で全体座屈モードの一例で,柱頭部が水平に拘束されていない場合に起こる可能性があります.

 また,13.1-1(b)は,鋼I形断面のフランジの座屈波形で局部座屈の一例で,フランジ厚が薄く,突出幅が大きい場合に起こる可能性があります.全体座屈強度は部材の細長比に関係し,局部座屈強度は圧縮フランジの突出幅の厚さの比(幅厚比という)に関係します.

 

(a) 全体座屈モード       (b) 局部座屈モード

13.1-1 全体座屈と局部座屈

 

 

 

 Q13.2  部材の細長比はどのようにして求めるのですか?

 

 A13.2 部材長()を断面回転半径()で割ったものを細長比()と言います.たとえば,図13.2-1に示すような,I形断面を例にとれば,図心は断面中心にあり,主軸は対称軸上にあり,水平軸(x)回りの断面二次モーメント()が垂直軸(y)回りの断面二次モーメント()より大きくなるので,x軸が強軸,y軸が弱軸になります.

 

 

                  図13.2-1 対称I形断面

 

 さて,13.2-1の断面について,断面積(A)は,,断面二次モーメントは,であり,断面回転半径()は,となります.

 

 

 

 Q13.2 有効座屈長とは何ですか?また,どのように利用するのでしょうか?

 

 A13.2  断面の図心に圧縮荷重を受ける長柱の座屈荷重()は,以下のように表わされます.

                                  (13.2-1)

 ここに,:係数(座屈係数と呼ばれる),:曲げ剛性,:柱の長さであり,は柱の支持条件

 

13.2-1 柱の有効座屈長(:部材長)

 

によって決まり,両端が回転支持(ヒンジ支持)の場合は,k=1,両端が固定の場合は,k=4となります.ラーメン構造の柱では,両端の支持条件が複雑であり,座屈面が面内か面外かによっても支持条件が変わってきます.

 ところで,式(13.2-1)をつぎのように表わし,

                                  (13.2-2)

 ここに,は両端が回転支持の柱と見なしたときの等価長さであり,有効座屈長と呼んでいます.すなわち,柱の長さ()との関係は,となり,各種の支持条件に対するまたはの値を事前に求めておくと,設計に利用でき,多くの文献に与えられています.たとえば,道路橋示方書,鋼橋編では,鋼柱の有効座屈長,:柱の部材長,は13.2-1のように与えられています.

 さらに,詳しい説明は,Chap.10(PDF)の中のpp.96-101,例題10.1-2をご覧ください.

 

 

 Q13.3 座屈応力度はどのように定め,設計に利用するのでしょうか?

 

 A13.3 座屈応力度()は,座屈時の応力度,すなわちを意味します.したがって,式(13.2-2)より,

                        (13.3-1)

 ただし,細長比,としており,上式より,座屈応力度は細長比の二乗に反比例することが分かります.

 ところで,着目する柱の両端の支持条件が面内および面外とも同じであれば.座屈は弱軸回りに起こるので,

                          (13.3-2)

 ここに,とおいており,細長比の大きい軸に座屈応力度が支配されると言えます.

 一般に,座屈応力度と細長比の関係は,13.3-1のように表せます.式(13.3-1)は弾性理論による座屈応力度と細長比の関係を示し,弾性理論値と呼ばれています.したがって,式(13.3-1)の適用範囲は,,ここには降伏強度,であります.

13.3-1 座屈強度曲線

 

それに付け加えて,実際の部材では,避けがたい荷重の偏心や初期変形などがあり,座屈荷重は理論値より低くなる可能性が高いので,設計に適用する座屈強度曲線は,13.3-1の太線のようになり,さらにこの曲線を基準にして,一定の安全率を導入した許容値が定められています.

 たとえば,道路橋示方書,鋼橋編では,板厚が40mm以下のSS400材の局部座屈を考慮しない許容軸方向圧縮応力度()は,以下のようになっております.

       では,

       では,

       では,

       ただし,の単位はN/mm2です.

さらに詳しい説明は,Chap.10(PDF)の中のpp.102-104をご覧ください.

 

 

 

 Q13.4 実構造物の座屈強度を求める場合の留意点を教えて欲しい.

 

 A13.4 実構造物での部材の支持条件は多種・多様です.したがって,13.2-1の有効座屈長の取り方には注意する必要があります.たとえば,13.4-1の門形ラーメンの柱が圧縮荷重を受け場合を例に取りますと,座屈モードは節点での拘束条件によって大きくことなります.もし,節点bおよびcでの拘束が無ければ,座屈モードは,面内では(b),面外では(c)で節点で水平に移動するモードが現れ,正弦曲線の半波長に相当する有効座屈長が,面内および面外モードのそれぞれに対して求められます.この場合の(13.2-2)の座屈荷重は,面内および面外の柱の断面2次モーメントを考慮して求められ,小さい方の座屈荷重を用いたときの(12.3-2)の座屈強度に支配されます.

 

 

13.4-1 門形ラーメンでの座屈モード

 

 一方,節点bに水平拘束がある場合には,面内モードは図(a)のようになり,明らかに水平拘束の無い図(b)のモードより,有効座屈長が短くなり,もし,節点bでの面外方向の拘束がなければ,面外方向の有効座屈長に基づく座屈強度に支配されます.したがって,実構造物での圧縮荷重を受ける部材の座屈強度は,面内および面外の支持条件および拘束条件を考慮し,最大の有効座屈長と面内および面外の断面2次モーメントの組合わせにより,最も小さい座屈強度を決定しなければならないと言えます.式(12.2-3)から分かるように,座屈強度は細長比の2乗に反比例しますので,もし,有効座屈長を小さく評価すれば,非常に大きな座屈強度を与えることになり,構造安全性の観点より留意しなければなりません.特に,構造部材が地盤によって支持されている場合は,地盤の変形によって有効座屈長が大幅に変化するので,最も大きくなる有効座屈長を考慮した座屈設計法が重要になります.

 

 

 

 Q13.5 鋼I形断面や鋼箱形断面の局部座屈強度はどのように考慮するのでしょうか?

 

 A13.5 I桁や鋼箱桁断面の圧縮フランジにおいて,板厚(t)に対するフランジ幅(b)の比(b/t)が大きいと,13.1-1(b)に示したような局部座屈が起こり易くなります.は幅厚比と呼ばれており,局部座屈強度を基準にした許容圧縮応力度を規定するための重要な因子になります.

 

 

           (a) 箱桁断面            (b) I形断面

13.5-1 鋼桁断面での幅厚比

 

 道路橋示方書,鋼橋編では,13.5-1(a)の箱桁断面での許容圧縮応力度は以下のように与えられています.

 SS400材で,板厚が40mm以下のフランジおよびウエブに対しては,

        ,ただし,

        ,ただし,            (13.5-1)

         

 ここに,は板厚で,またはは固定縁端距離で,フランジでは,ウエブではは応力勾配で,圧縮フランジまたは純圧縮のウエブでは,純曲げのウエブではである.

 つぎに,13.5-1(b)に示すような,SS400材で,板厚が40mm以下のI形断面の圧縮側の自由突出フランジに対しては,

        ,ただし,

        ,ただし,            (13.5-2)

と与えられている.自由突出幅が広ければ,局部座屈強度が大幅に減少することに留意して頂きたい.

 さらに詳しい説明は,Chap.10(PDF)の中のpp.104-108をご覧ください.

 

 

 

 Q13.6 局部座屈強度を高めるための補剛材はどのように入れると効果があるのでしょうか?

 

 A13.6 前問でお答えしたように,局部座屈強度は幅厚比を小さくすることによって増加します.また,幅厚比()で,は固定縁端距離で,両端が回転支持であれば,bは正弦波の半波長に相当します.したがって,固定縁端距離が小さくなるように,中央に補剛リブを挿入することにより,局部座屈強度を高めることができます.たとえば,13.6-1の箱桁断面を例にとれば,無補剛の場合の座屈モードは,13.6-1(a)の点線のようになり,bはウエブ高さ,またはフランジ幅にほぼ等しくなります.もし,ウエブおよびフランジの中央に補剛リブを設ければ,13.6-1(b)の点線のように,補剛リブ上で節になる座屈モードになり,固定縁端距離が半減し,(13.5-1)により,局部座屈強度は大幅に増加します.しかしながら,補剛リブの剛性が小さいと座屈モードは補剛リブ上で節にはならず,固定縁端距離が大きくなり,その分だけ,局部座屈強度が増加します.座屈モードが補剛リブ上で節になるための最小剛性は有効剛性と呼ばれ,道路橋示方書,鋼橋編では詳細に規定されています.

 

13.6-1 箱桁断面の局部座屈モード

 

 

 

 Q13.7 補剛板の基本耐荷力曲線とは何ですか?

 

 A13.7 前述した13.6-1(b)のように,補剛リブが等間隔に配置された場合には,座屈モードがリブ間を正弦波の半波長とした座屈モードに支配され,リブ上で単純支持された平板の座屈問題として取り扱えます.13.7-1に示すような,一様圧縮応力を受ける単純支持板の弾性座屈強度の理論値は以下のように与えられます.

                              (13.7-1)

 ここに,は短辺の長さ,は平板の弾性係数,は板厚,はポアソン比であります.式(12.7-1)は弾性理論値であるので,は降伏応力度,の範囲で有効であり,適用範囲は

                              (13.7-2)

 ところで,

 

13.7-1 一様圧縮荷重を受ける単純支持板

 

                             (13.7-2)

を幅厚比パラメータとも呼ばれ,は座屈係数で,単純支持板の場合,となります.

 道路橋示方書,鋼橋編では,弾塑性領域を含む基準耐荷力曲線は,以下のように与えられています.

          (に対して)

        (に対して)             (13.7-3)

        (に対して)

 

13.7-2 基準耐荷力曲線

 

 また,補剛リブで区切られたパネル数がnであるときの,座屈係数はとなります.13.7-2に示すように,初期たわみや残留応力などの初期不整の影響で,局部座屈強度が低下するので,実験値の下限を通るように基準耐荷力曲線は弾性理論値よりかなり低く採られています.

さらに詳しい説明と関連する例題は,Chap.10(PDF)の中のpp.104-108をご覧ください.

以上