11. 合成桁橋に関連する問題

 

 

 Q11.1 合成桁橋では,床版と桁のコンクリートの温度変化,クリープや乾燥収縮量の差によって応力が発生するとありますが,この理由は何でしょうか?また,どのようにして応力度を求めるのでしょうか?

 

 A11.1 床版と桁との合成した後のコンクリートの温度変化,クリープや乾燥収縮によるひずみが一様に発生するならば,これらのひずみによる応力は発生しません.しかしながら,コンクリート桁とプレキャスト床版の合成桁では,桁と床版の材齢が異なり,クリープや乾燥収縮によるひずみ増加の時間的特性が異なるので,桁と床版が互いに拘束し,その結果,床版と桁の断面に応力が発生します.また,鋼桁とコンクリート床版の合成桁では,温度変化やコンクリートの乾燥収縮により同様の応力が発生します.

 温度ひずみ(),クリープひずみ(),や乾燥収縮ひずみ()などは,初期ひずみ()と呼ばれ,全ひずみ()を弾性ひずみ()の和で表わすと,弾性条件は以下のようになります.

                       (11.1-1)

    ここに,:拘束に伴って発生する応力度,:コンクリートの弾性係数で,材齢に伴って変化します.(11.1-1)を書き換えれば,

                          (11.1-2)

    ここに,は初期応力と呼ばれており,に拘束したときの応力度であり,(伸び)の場合は,(圧縮)になります.初期ひずみによる応力は,を解放したときの弾性応力として求めることができます.

 以下の11.1-1(b)に示すような,コンクリート床版が温度上昇を受けた場合を例にとって説明します.初期ひずみは

                                 (11.2-3)

 ここに,:コンクリートの線膨張係数である.

11.1-1 床版の温度変化による応力度

 

 最初に,としたときの拘束力は

                       (11.2-4)

 ここに,はコンクリート床版の弾性係数と断面積.の解放力()を合成断面に与えたときの応力度は,

                           (11.2-5)

 ここに,:合成桁断面の図心からの距離(上方を正),:合成桁断面の図心から床版の図心までの距離,:合成桁断面の断面積,:合成桁断面の断面2次モーメントであり,温度変化による応力度は,初期応力()の和として以下のように与えられます.

 床版断面:   (11.2-6)

 桁断面:                 (11.2-7)

 ここに,I桁の弾性係数で,(11.2-6)および(11.2-7)による応力分布11.2-1(f)に示します.当然のことながら,拘束力と解放力の和がゼロであるので,11.2-1(f)の応力分布での合力および合モーメントはゼロになります.

 なお,初期ひずみがクリープひずみである場合は,材齢が弾性係数に与える影響と応力変化に伴うクリープひずみの変化も考慮する必要があります.

  さらに,詳細な説明と関連する例題は,Chap.9(PDF)の中のpp.93-96,例題9.2-45をご覧ください.

 

 

 

 Q11.2 合成桁における床版と桁との接合面の付着せん断応力度として,下記の式が与えられていますが,この式はどのようにして求められたものでしょうか?

                                     (11.2-1)

 ここに,:桁断面に作用する設計せん断力,

     :合成断面の図心軸に関する床版の断面一次モーメント,

     :桁と床版の接合面の桁軸直角方向の幅,

     :合成断面の図心軸に関する合成桁断面の断面二次モーメント

 

 A11.2 (11.2-1)は合成桁の曲げに伴うせん断応力の床版と桁の結合面に着目した式であります.11.2-1を参照すると,合成桁の断面の曲げ応力度はつぎのように表せます。

                                  (11.2-2)

 ここに,:曲げモーメント,:合成断面の図心からの距離であり,床版断面に作用する軸力は,

                           (11.2-2)

 ここに,は床版の断面積で,は合成断面の図心軸に関する断面一次モーメントであります.床版と桁の結合面に働く付着せん断応力度は,桁軸方向にdxだけ離れた2断面でのの差とのつり合い条件により

                           (11.2-3)

 ただし,床版の弾性係数と桁の弾性係数が異なる場合には,を基準にした合成断面の断面二次モーメントと,弾性係数比を導入して,以下のようになります.

                                 (11.2-4)

 

 

11.2-1 合成桁断面の付着せん断応力度

 

 さらに,詳細な説明は,Chap.8(PDF)の中のpp.76-78をご覧くだしさい

 

 

     

 Q11.3 鋼桁とコンクリート床版をずれ止めにより一体化した合成桁において、ずれ止めに作用するせん断力はどのようにして求めるのですか?

 

 A11.3 ずれ止めが密に配置しているとすれば,式(11.2-1より.付着せん断応力度は

                               (11.3-1

 ここに,は着目するずれ止めの位置での合成桁のせん断力,は上フランジの幅,は合成断面の図心をとおる水平軸に関する床版断面の断面1次モーメント,は合成断面のコンクリートに換算した断面2次モーメントである.いま,ずれ止めの桁軸方向の間隔を,上フランジの幅方向のずれ止めの数をmとすれば,式(11.3-1より,ずれ止め1本に作用するせん断力は以下のように与えられます.

                             (11.3-2

 さらに,詳細な説明と関連する例題は,Chap.8(PDF)の中のp.76,例題8.1-1をご覧ください.

 

 

 

 Q11.4 道路橋示方書、コンクリート編および鋼橋編では、合成桁のコンクリート床版の乾燥収縮や温度差によるずれ止めに作用するせん断力は、図11.4-1に示すように、支点からスパン長の1/10の区間のみに三角形分布するとありますが、この根拠を教えて欲しい。

 

11.4-1 ずれ止めのせん断力の分布

 

 A11.4 (11.2-1)(11.3-1)は,床版と桁の界面にはずれが無いと仮定した完全合成理論に基づいて誘導されたものあります.ところで,完全合成理論によれば、床版が乾燥収縮や温度変化を受けたときの付着せん断度は桁端部に集中し,付着せん断応力度は桁端部で無限大になります.しかしながら,桁端部でごく僅かなずれが発生すると,付着せん断応力度の集中は緩和されます.桁端部のせん断力の集中現象はずれ止めの剛性に関係していますが,現実の合成桁の桁端部には横桁があり構造形状が複雑であり,正確な解析が困難であるので,道路橋示方書では,図11.4-1のように,桁端部(支点上)からスパン長の10/1の区間で,付着せん断応力度は三角分布と仮定しております.

 いずれにしても桁端部の付着せん断応力度は大きくなるので,11.4-2に示すような,端部のコンクリート床版には特別な補強筋が必要になります.

11.4-2 補強鉄筋の配置例

 

   さらに,詳細な説明と関連する例題は,Chap.8(PDF)の中のpp.81-83をご覧ください.

 

以上