9.  床版および床版橋に関連する問題

 

 

  Q9.1 床版の辺長比や荷重形や支持方法の相違によって取り扱いが違うのでしょうか?

 

 A9.1 はりまたは桁に比べて,床版(スラブとも言う)は厚みに比べて長さおよび幅の大きい部材を言います.表面に荷重を受ける床版の曲げモーメントの算定は,“平板理論”に基づくのが原則ですが,支間長に比して支持辺長が小さい床版橋などでは,桁として取り扱うことができます.全周で支持された床版では,短辺方向の支間長()に対する長辺方向の支間長()の比が,2または3以上のものを一方向版と呼び,それ以下のものを二方向版と呼んでいます.道路橋の主桁や横桁で支持された床版は,一方向版になる場合が多く,等分布荷重による曲げモーメントは“はり理論”により,車両荷重(T荷重)による曲げモーメントは“平板理論”により算定するのが原則です.

 

 

 

 Q9.2 平板理論とはどのようなものでしょうか?桁や格子桁とはどのように違うのですか?

 

 A9.2 9.2-1(a)に示すように,平板はx,y軸の二方向に湾曲するもので,桁のように軸方向にのみ湾曲するものとは異なります.

 9.1-1(b)のように,桁をx,y軸方向に交差した構造は,平板と同じように2方向に湾曲しますが,発生する曲げモーメントやせん断力が異なります.

 格子桁の解析は,はりの解析を基本とします.すなわち,x,y方向の桁は以下の微分方程式に支配されます.

      ,                       (9.2-1)

    ここに,は弾性係数,はそれぞれx,y方向の桁の断面2次モーメント,はそれぞれx,y方向の桁に作用する分布荷重で,はたわみである.(9.2-1)の一般解より,各桁のたわみを求め,交差点でたわみが等しくなるようにすれば,格子桁の解が求められる.

 一方,等方性板のたわみはつぎの偏微分方程式に支配されます.

                          (9.2-2)

 ここに,x,y軸方向に広がる荷重分布強度,は版剛性で,x,y方向にの剛性が同じである

 

 

9.2-1(a) 平板             図9.2-1(b) 格子桁

 

等方性板の場合は,,ここには板厚,はポアソン比である.格子桁の解と平板の解を比較すると,荷重分布形や支持条件に大きく影響されます.たとえば,全面等分布荷重の場合は,格子桁の数をある程度多くとると,わたみについてはほぼ同じ結果になります.最も大きくことなるのは,集中荷重のような局部荷重を受ける場合で,格子桁の結果に比べて,平板の最大曲げモーメントは非常に大きくなります(理論的には,集中荷重に対する式(9.2-2)による最大曲げモーメントは無限大になります).したがって,自動車の車輪荷重のような局所荷重を受ける床版の曲げモーメントやせん断力の算定には平板理論を用いなければなりません.しかしながら,短辺と長辺の比が非常に大きい(3以上)の床版(一方向板という)が全面等分布荷重を受ける場合は,桁としての解析でも十分かもしれません.

 一般に,平板の解析は桁の解析に比べて煩雑であり,数値図表を利用するのが便利であります.本件に関連する例題がChap.11.2(PDF),また平板のたわみ,モーメント,せん断力などの数値表が別途用意しておりますので,お問い合わせください.

 

 

 

 Q9.3 土木学会,構造力学公式集などの平板の曲げモーメントやせん断力の図表において,曲げモーメントの単位がN,せん断力の単位がN/mのようになっているのは何故でしょうか?また,軸対象荷重を受ける円板のせん断力の値が書いていないのは何故ですか?

 

 A9.3 床版やスラブのような平板の断面力は,奥行きが単位長さ(1.0mまたは1.0mm)について定義されています.したがって,曲げモーメントの単位はN.m/m=N,せん断力の単位はN/mになります.前問の格子桁の解析結果での桁の断面力との比較では,平板の断面力に桁間隔を掛けたものを用いなければなりません.

 軸対称荷重を受ける円板の問題は中心軸に関して回転対称になりますので,中心から半径の位置での円周方向のせん断力はゼロで,半径方向のせん断力は,次式で簡単に求められます.

                        (9.3-1)

 たとえば,等分布荷重強度は全面に受ける場合は,に,中心に集中荷重を受ける場合は,になります.(9.3-1)は一般式として利用できますので,通常の円板の数値表には軸対称問題のせん断力が記載されておりません.

 

 

 

9.3-1 軸対称荷重を受ける円板

 

 

 

 

 Q9.4 床版橋の設計において,図9.4-1(a)のような直橋と,図9.4-1(b)のような斜橋では,配筋方法がどのように異なるのでしょうか?

 

 A9.4 9.4-1(a)の床版橋の両端が単純支持されている場合,支承線上の床版には,曲げモーメントは働かないが,ねじりモーメントが作用します.床版の中央に荷重が載る場合には,の大きさは支承線の中央ではゼロですが,端に近づくにつれて大きくなり,また,荷重が偏心載荷してもは大きくなります.

 

9.4-1(a),(b) 床版橋

 

 ところでねじりモーメントを受けた床版断面には45゜方向に正負の主モーメントが発生しますので,断面の上下面に引張応力が発生します.このために,床版の支承線付近の隅角部には断面の上下に補強筋を入れねばなりません.一方,直橋に比べて,斜橋では,支承線上の支持力は鈍角部に集中し,ねじりモーメントも大きくなりますので.鈍角部近傍の断面にはより多くの補強鉄筋を必要とします.具体的な補強法については,道路橋示方書,コンクリート編を参考にしてください.

 なお,長方形板のモーメントおよび反力との特性についての詳細は,Chap.11.2(PDF)の中のpp.115-116,例題11.2-3を参照してください.

 

以上