8. 部材のせん断とねじりに関連する問題

 

 

 Q8.1 せん断スパン長とは何ですか?またどのような意義があるのでしょうか?

 

 A8.1 せん断スパン長とは,せん断力が一定の区間を言います.たとえば,8.1-1に示すように,単純支持桁の両支点から距離にある2点に鉛直集中荷重Pが作用した場合,荷重点の曲げモーメントであり,区間aのせん断力は一定で,がせん断スパン長となります.また,任意分布荷重を受けた場合には,最大曲げモーメントと支点反力とすれば,がせん断スパン長に相当します.

 鉄筋コンクリート断面の有効高をdとし,をせん断スパン比と言います.8.1-1に示すように,この比はせん断破壊を起こすか,曲げ破壊を起こすかの指標になり,実験によれば,この比が大きい(たとえば,)とRC部材の曲げ破壊が先行し,この比が小さいとせん断破壊が先行すると言われています.

 

8.1-1 せん断スパン比と破壊モードの関係

 

 

 

 Q8.2 設計荷重作用時および終局荷重作用時のせん断力の照査はどのように行なうのでしょうか?

 

 A8.2 設計荷重時の鉄筋コンクリート部材のせん断強度は,(1)コンクリートが受け持つ強度と(2)斜引張鉄筋が受け持つ強度との和として与えられています.I形,T形や箱形断面のRC部材の(1)の成分は次式によって与えています.

                                    (8.2-1)

    ここに,は設計せん断力,はウエブ厚,は有効高です.はウエブに働く平均せん断応力であり,設計荷重作用時の許容値(で,N/mm2で,),終局荷重作用時の許容値で,で,)である.

 設計荷重作用時では,許容値以下の場合には,(2)の照査は不要で,許容値を超える場合には,超過分を(2)で受け持たせます.また,(2)の斜引張鉄筋が受け持つ強度は,トラス理論を用いて算定します.

 トラス理論とは,8.2-1に示すように,コンクリートウエブに斜引張ひび割れが発生した後には,斜引張力はせん断鉄筋で受け持ち,斜圧縮力はコンクリートで受け持たせるとした方法であります.一般には,トラス理論で受け持つせん断耐力は次式で表されます.

                          (8.2-2)

    ここに,:斜引張ひび割れの部材軸方向からの傾斜角度で,一般にとし,:せん断鉄筋の部材軸方向からの傾斜角度で,鉛直スターラップの場合は゜,:曲げ圧縮力の合力の中心から引張鋼材の図心までの距離,:せん断鉄筋の許容引張応力,:斜引張ひび割れが横切るせん断鉄筋の総面積である.

 

8.2-1 トラスモデル

 

 道路橋示方書,コンクリート橋編では,設計荷重作用時では,はせん断鉄筋の許容引張応力度に採り,終局荷重作用時には,は降伏強度に採るようになっています.

 さらに,詳しい説明と関連する例題は,Chap.6.1(PDF)pp.57-58をご覧ください.

 

 

 Q8.3 ねじりモーメントによるせん断力の照査はどのような場合に必要なのでしょうか?

 

 A8.4 一般的に言えば,荷重の作用線が断面のせん断中心(Q8.5参照)にない場合には部材がねじれ,ねじりモーメントによるせん断力が発生しますが,曲線橋や格子桁橋のように,断面のせん断中心からの荷重の偏心距離が大きくない限り,コンクリート桁のねじりモーメントによるせん断力は,曲げによるせん断力より小さく,その影響は小さいものと思われます.

 ねじりモーメントによる断面内のせん断応力度の算定は,弾性理論によらねばなりませんが,円形断面以外ではその算定法は煩雑であります.

 円形断面では,ねじりモーメントによるせん断応力度は側面に発生し,その値は

                                   (8.4-1)

    ここに,:断面極二次モーメント,:断面中心からの距離で,最大せん断応力度は断面縁に発生します.

 円形以外の断面に対する最大せん断応力度は理論解析の結果をまとめ,道路橋示方書,コンクリート橋編では,以下ように表されています.

                                    (8.4-2)

    ここに,は断面形状に依存する係数であり,詳細はChap.6.2(PDF)の中のp.62,例題6.2-2を参照してください.

 ところで,設計荷重作用時および終局荷重作用時のねじりモーメントに対する安全性の照査では,

 

      

8.4-1 ねじりせん断によるひび割れ,  図8.4-2ねじりモーメントに対する補強鉄筋例

 

式(8.4-2)と式(8.4-1)の曲げせん断応力度を加算し,コンクリートの許容せん断応力度を越える部分を鉄筋で持たせるよう規定しています.ねじりモーメントによる最大せん断応力は断面縁で起こり,部材側面でのひび割れは,8.4-1のように,部材軸から45゜方向に発生しますので,補強鉄筋は図8.4-2に示すように断面の全周を囲むように配置しなければなりません.

   さらに,詳細な説明と関連する例題は,Chap.6.2(PDF)pp.62-65をご覧ください.

 

 

 

 Q8.5 部材断面のせん断中心とは何ですか

 

 A8.5 外力の作用線が部材断面内の一つの点をとおるときに,ねじりモーメントが発生しないような位置が存在し,このような位置をせん断中心と呼んでいます.たとえば,8.5-1(a)に示すような,上下フランジ断面が同じであるようなI形断面の部材が荷重Pを受ける場合は,荷重の作用線が図心Oをとおれば,断面にはねじりモーメントが発生しないので,せん断中心Cと図心Oが一致します.この場合は,8.5-1(b)に示すような,荷重の作用線がせん断中心Cから偏心距離eを有すれば,断面には,せん断力Pとそれに伴う曲げモーメントが発生すると同時に,なるねじりモーメントが発生します.対称断面であるI形断面や箱形断面では,図心Oとせん断中心Cが一致しますが,図8.5-1(c)のような,溝形断面では,OCが一致しないので,ねじりモーメントの評価には留意が必要であります.

 

 

8.5-1 図心Oとせん断中心C

 

以上