5.   材料の設計強度に関連する問題

 

 

 Q5.1 道路橋示方書では,鉄筋コンクリートの許容圧縮応力度は,曲げ圧縮の場合と軸圧縮の場合では異なっていますが,これは何故なのでしょうか

 

 A5.1 ご指摘のように,道路橋示方書,コンクリート橋編では,鉄筋コンクリート構造に対する許容圧縮応力度は,以下のように与えられています.

 

5.1-1 鉄筋コンクリートの許容圧縮応力度(

設計基準強度

21

24

27

30

曲げ圧縮

7.0

8.0

9.0

10.0

軸圧縮

5.5

7.5

7.5

8.5

        ()単位はN/mm2である.

 

 

5.1.-1 断面内のコンクリートの応力分布

 

表において,設計基準強度の許容圧縮強度に対する比(安全率)は,曲げ圧縮の場合は3.0,軸圧縮の場合は3.5-3.8になっています.このように,安全率が曲げ圧縮に比べて軸圧縮の方が大きくなっているのは,断面内の応力分布の違いにあります.図5.1-1に示すように,断面内のコンクリート応力の最大値は,曲げ圧縮の場合は,断面の圧縮縁に発生しますが,軸圧縮の場合は断面内の応力は一様で,最大応力は全断面で発生します.一軸圧縮応力を受けるコンクリートの応力・ひずみ関係では,ピーク(終局)強度を過ぎても直ぐに破壊に至るのではなく,ある程度の塑性ひずみを伴って徐々に破壊に至るので,断面内のコンクリート応力の最大値を越えた後は,軸圧縮の場合には,急減に強度を損失させ,脆性的な挙動を示しますが,曲げ圧縮の場合はある程度の強度を保有しながら,変形するという延性的な挙動示します.したがって,鉄筋コンクリート部材の破壊に対する安全性という観点で見れば,最大応力の値が同じであっても曲げ圧縮の方が軸圧縮より安全率が高いので,許容応力度は,曲げ圧縮より軸圧縮の方が低く採っているのです.

 なお,プレストレストコンクリート構造に対する許容圧縮応力度は,曲げ圧縮と軸圧縮の影響だけではなく,断面の形状の影響も考慮して決められています.

 

 

 

 Q5.2 前問に関連して,道路橋示方書では,二軸曲げ圧縮の許容圧縮応力度は,表5.1-1の曲げ圧縮の場合より,1.0N/mm2だけ大きく採っていますが,その根拠は何ですか?

 

 A5.2 実験によれば,コンクリートの二軸圧縮強度は一軸圧縮強度の1.2-1.3倍程度になることが分かっています.したがって,このことを考慮して,二軸圧縮許容応力度は,一軸圧縮許容応力度より1割から1.5割だけ増加させたものと思われます.

 

 

 

 Q5.3 道路橋示方書では,コンクリートの許容支圧応力度は,次式のように与えています.

                             (5.3.1

    ここに,:コンクリートの設計基準強度,

       :局部載荷の場合のコンクリート面の有効支圧面の面積

       :局部載荷の場合の支圧を受けるコンクリート面の面積,

       ただし,とする.

 (5.3.1)におけるとは具体的にはどのようなものを指すのでしょうか?

 

A5.3 コンクリートの支圧強度とは,プレストレスト構造のPC鋼材の定着部や桁の支承部に代表されるように,コンクリート部材の表面の一部に局部圧縮荷重を受けるときの圧縮強度を意味します.

 

5.3-1 局部に集中した圧縮荷重を受ける部材

 

 5.3-1において,は載荷面の面積,は部材の荷重を受けるコンクリート面の面積を意味しています.一般的に言えば,比が小さくなればなるほど,載荷面の荷重強度(単位面積当たりの荷重の大きさ)が大きくなりますが,荷重面から部材の側面の自由面までの距離(縁端距離という)が短くなると,5.3-1に示すように,荷重面から部材軸方向に少し離れた軸直角方向の面に引張応力が発生し,割裂破壊する危険性があります.道路橋示方書,コンクリート編では,の図心に一致する部分のみに採っています.

 

 

 

 Q5.4 鉄筋の許容引張応力度はどのようにして決めているのでしょうか?

 

 A5.4  基本的には,鉄筋の許容引張応力度は降伏点を基準にして決めております.たとえば,SD295Aの鉄筋の降伏点は,JIS値では,295N/mm2以上であり,道路橋示方書,コンクリート橋編では,活荷重及び衝撃以外の主荷重に対する許容引張応力度は100N/mm2となっており,荷重の組み合わせに衝突荷重または地震荷重を考慮する場合の許容引張応力度は180N/mm2となっています.

 したがって,鉄筋の許容引張応力度は,降伏点を基準にしながらも荷重の特性に応じて変化させており,材料の安全率だけではなく荷重に依存する安全率も考慮されているといえます.

以上